ステンレスは錆びにくく硬いという性質から、機械の部品や住宅設備など幅広く使用されている金属です。しかし、板金加工が難しいというデメリットもあります。
一口にステンレスといっても、たくさんの種類があり、それに応じて特徴もさまざまです。種類ごとの特徴を正しく理解しなければ、最適な加工が施せません。
本記事では、ステンレス鋼板の種類と板金加工の流れについて解説します。種類の特性を理解したうえで、板金加工を行うことが大切なので、ぜひ参考にしてください。
ステンレスとは
そもそもステンレスとは、主成分である鉄にクロムやニッケルを混ぜた合金です。錆びやすい鉄の代わりに開発されました。
クロムやニッケルを混ぜたのも、耐食性や強度を向上させるためです。特に、クロムは、鉄の表面に不動態皮膜と呼ばれる膜を形成し、錆びを防止します。
錆びにくいだけでなく、熱伝導率が低く耐熱性や保温性に優れていることもステンレスの特徴の一つです。また、粒子結晶が細かく汚れが染み込みにくいため、衛生的でもあります。
多くのメリットがあるステンレスですが、加工のしにくさが難点。難削材とも呼ばれ、工具刃先に負担をかけやすい金属です。
ステンレス鋼板の種類
ステンレス鋼板のことを、建築用語で、SUS鋼板ともいいます。「Steel Use Stainless」の略で、読み方は「サス」です。
SUS鋼板は、大きく分類すると以下の3種類の系統で表されます。
マルテンサイト系
マルテンサイト系は、一般的にクロムを13%含むステンレス鋼板のことを指します。代表的なのが、SUS403・SUS410などです。
炭素の含有量が多いため、焼入れによる硬化が可能です。耐酸化性に優れ、500度程度までは耐えうる耐熱性も備えています。
ニッケルの含有量が少ないことから、磁性を持っているのも特徴の一つです。ただし、耐食性は、フェライト系やオーステナイト系に比べて劣ります。
フェライト系
フェライト系は、SUS430を代表とした、クロム系のステンレスです。ニッケルを含まないため、安価で、オーステナイト系の代替品として使用されることがあります。
オーステナイト系に比べると劣りますが、耐食性・耐熱性・加工性に優れた合金です。身近なところでいえば、スプーンやフォーク、鍋などに使用されているのも、フェライト系ステンレスです。
ほかにも、建物の屋根や自動車の排気管、高耐腐食性部品まで、幅広い用途で使用されています。
オーステナイト系
18%のクロムと8%のニッケルを主成分としたSUS304を代表格に持つ、オーステナイト系ステンレス。耐食性・延性・靭性に優れているほか、冷間加工性や溶接性にも問題ないステンレスです。
ニッケルを含むため、基本的に磁性は持ちません。全ステンレス鋼板のうち6割以上は、オーステナイト系と言われるほど、身近によく見かける材料です。
欠点といえば、焼入れしても硬化しないため、硬度は劣ります。また、自然界に多く存在する塩化物イオンにさらされると、応力腐食割れを発生しやすいという点もデメリットです。
ステンレス板金加工の流れ
ステンレス板金加工をする際は、以下のような流れで行います。
- 切断
- 曲げ
- 溶接
- 仕上げ
- 検査
それぞれを詳しく見てみましょう。
1.切断
ステンレスは硬いだけでなく、熱伝導率の悪い金属です。そのため、切断する場合は、プレートや工具に熱がこもらないような工夫が必要になります。
ステンレスが熱の影響を受けると、変色してしまう場合も。見た目の美しさを保つためにも、熱を逃がしながらの作業が大切です。
2.曲げ
曲げ加工は、プレス機械を使用するのが一般的です。ステンレス板を図面の形に曲げるために行います。
ステンレス板金加工のなかでも、特に高い技術が必要とされるのが曲げ加工です。それは、ステンレスがスプリングバックの大きい金属だからです。
スプリングバックとは、加工するため圧力を加えたあと、元の形に戻ってしまう現象のことを指します。曲げ加工を行う場合は、スプリングバックを視野に入れて加工することが重要です。
3.溶接
ステンレスの溶接方法には、アーク溶接・電子ビーム溶接・レーザー溶接・電気抵抗溶接など、さまざまあります。溶接時には、ステンレスの種類に応じた特徴を理解することが大切です。
たとえば、オーステナイト系はステンレスのなかでは比較的溶接は簡単な部類ですが、高温に弱いという性質があります。そのため、高温割れや変色に注意して溶接を行わなければいけません。
一方、フェイライト系は、加熱による475℃脆化の発生に注意が必要です。溶接後、冷却速度を上げることで回避できます。
4.仕上げ
仕上げは、ステンレスならではの滑らかな表面にするため必要な工程です。表面を滑らかにするほど錆びにくくなる傾向があります。
そのため、水回りで使用する場合、光沢のある滑らかな表面仕上げが施されたステンレスが採用されがちです。逆に光沢やツヤをなくすヘアライン仕上げと呼ばれる加工では、高級感を演出できます。
このように、用途に応じて、表面仕上げの方法を選択する必要があるでしょう。
5.検査
仕上げまで完了したステンレスは、検査が行われます。検査方法は、目視の場合と検査機器を使用する場合があります。
検査項目は、数量・図面寸法と角度・公差・表面の仕上がり具合などです。検査に合格して初めて製品の組み立て工程に進められます。
まとめ
ステンレスは、錆びにくく硬いという特徴から、日常生活でもよく目にする金属です。耐熱性や保温性にも優れ、見た目にも滑らかな表面仕上げを施されたステンレスは高級感があります。
ステンレス板金の加工工程は、以下の通りです。
- 切断
- 曲げ
- 溶接
- 仕上げ
- 検査
板金加工の工程を適切に進めるためにも、ステンレスの種類による特徴を正しく理解する必要があります。ステンレスの種類は大きく分けて、マルテンサイト系・フェライト系・オーステナイト系の3種類です。ステンレス板金を行う前に性質をしっかり理解しましょう。